イタリアのおとぎ話しイタロ・カルビーノ「Fiabe Italiane」よりこのページでは、僕がひまを見つけて翻訳しているイタリアのおとぎ話しを掲載しています。イタロ・カルビーノ ITALO=CALVINO (1923-85)はイタリアの代表的な作家の一人で、本書「イタリアのおとぎ話 Fiabe Italiane」(初版1956) は副題のとおり「イタロ・カルビーノにより、ここ百年間の民衆の伝統文化から集められ、様々な方言からイタリア語に書き換えられた」イタリアのおとぎ話集です。全部で200のおとぎ話、民話が収められています。
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昔あるところに、ジョバンニンという若者がいました。彼には怖いものが何もなかったのので、人々は「怖いもの知らずのジョバンニン」と呼びました。ジョバンニンが国々をめぐる旅をしていた時のことです。ある田舎町で宿の主人に一泊したいというと、主人はこう答えました、 「部屋はないよ、けれど、もしお前が怖いもの知らずだったらある宮殿に連れて行ってやろう。」 「なんで、俺が何か怖がる必要があるってんだい? 」 「なんでって、あの場所は誰でも何かを聴いてしまうんだ。今まで誰一人としてそこから生きて帰ってきたものはない。いつだって朝になると、修道士達が棺桶をかついで、宮殿で夜を過ごした勇気ある者を迎えに行くのさ。」 そこは、我らのジョバンニン! ランプを一つととワインを一本、そして腸詰めを持つと宮殿に向かいました。 ジョバンニンが真夜中に食事をしていると、暖炉の煙突の口から声が聞こえました、 「投げようか? 」 ジョバンニンは答えて 「おう、投げろ! 」 すると、一本の腕が落ちてきました。ジョバンニンは口笛を吹き始めました。 「投げようか? 」「投げろ! 」 ドスンと、腕がもう一本。 「投げようか? 」 「投げろ! 」 こうして両足が落ち、胴体が落ち、皆くっつくと、一人の頭の無いの男がそこに立っていました。 「投げようか? 」 「投げろ! 」 頭が落ちてきて首の上に乗ると、それは見たこともない様な大男になりました。ジョバンニンはコップを持ち上げて「乾杯! 」と言いました。 大男は 「ランプを持ってこっちへ来い」と言いました。 ジョバンニンはランプを手に取りましたが、動きません。 「さあ、歩け! 」大男は言います。 「お前が歩け! 」とジョバンニン。 「お前だ! 」と大男。 「お前だ! 」とジョバンニン。 大男は宮殿を部屋から部屋からへと、明りを照らすジョバンニンを後に、歩いていきました。階段の下の物置の中に小さな扉がありました。 「開けろ! 」と大男。 「お前が開けろ! 」とジョバンニン。 大男が肩で押し開けると、扉の中には下へ降りる小さなラセン階段がありました。 「下りろ! 」と大男。 「お前が先に下りろ! 」とジョバンニン。 階段を下ると、大男は床に埋め込まれた石ぶたをを指差して、 「持ち上げろ! 」 「お前が持ち上げろ! 」とジョバンニンが言うと、大男はまるで小さな石ころの様にそれを軽々と開けました。その下には金のスープ鍋が三つありました。 「上に運べ! 」「お前が運べ! 」大男は金のスープ鍋を一つずつ上に運んでいきました。 二人が暖炉の部屋に戻った時のことです、 「ジョバンニン、呪いは解けた! 」 そう言って、大男は脚を一つ引っこ抜くとそれを暖炉の中、煙突の口に蹴り込みました。 「スープ鍋の一つはお前の物だ」 腕を一つ外すと、それは暖炉の中へ入り、上へとよじ登っていきました。 「もう一つは、お前を死んだものと信じて迎えに来る修道会のものだ。」 もう一つの腕も外すと、それは先の腕を追いかけていきました。 「三つ目は最初にここを通る貧乏人の物だ。」 残った脚も外すと、大男は床に座った形になりました。 「宮殿はお前の物にしたらいい」 そう言って、胴体も外すと、頭だけが床の上に残りました。 「この宮殿の主人の一族も、もはや永遠にとだえたのだから。」 大男の頭は宙に浮くと、煙突の中へと昇っていきました。 空が明るくなり始めたころ、「我が哀れなるものよ、ミゼーレ・メイ」と唱う声が聞こえてきました。それは、棺桶をかついでジョバンニンの死体を迎えに来た修道士たちでした。彼らは宮殿の窓に、パイプを吸っているジョバンニンの姿を見つけました。 怖いもの知らずのジョバンニンは大金持ちになって、宮殿で幸せに暮らしました、、、ある日、振り替えりざまに自分の影にびっくり仰天して、死んでしまうまでは。 |
イラスト:T.Kobayashi 「魚のコーラ」 シチリアはメッシーナにコーラという名の息子を持つ母親がいました。コーラは朝から晩までずっと海で泳いでいる子供でした。 王様は大変驚いてしました。そして、今度はナポリの海の火山の底を知りたくなりました。 コーラは海に潜り、帰ってくると、まず冷たい水があり、それから熱い水になり、 ある深さに達したところではぬるい水も湧いていたと王様に語りました。 けれども王様が信じようといなかったので、コーラは二つの瓶を用意して貰うと、 再び潜って熱い水とぬるい水を瓶にいれて帰ってきました。 |
イラスト:T.Kobayashi 「太陽の娘」 「生まれてくるのは女の子で、二十の誕生日をむかえる前に太陽が彼女を愛するだろう。そして彼女は太陽の娘をはらむように運命(さだめ)られている。」 自分達の娘が高い空にいて結婚することの出来ない太陽の娘を身ごもると知って、二人は気分が悪くなりました。そこで、運命を避ける方法を見つけるために、太陽の光も底までは届かないほど高いところに窓のある塔を建てました。そして、二十才になるまで太陽を見せないよう、生まれてきた娘を乳母と一緒に閉じ込めてしまいました。 乳母にも王の娘とおない年の娘がおり、二人の子供は一緒に塔のなかで育ちました。 二人とも、もうじき二十になるというある日のことです。塔の外にあるだろう素晴しいことについて話していた時に、乳母の娘が言いました、 「椅子を重ねてあの窓のところまで登って見ない? 外にあるものが、きっと見えるわ!」 言うが早いか、二人は窓まで届く高い高い椅子の山を作ってしまいました。窓に顔をくっつけて二人は見ました、森の木々や川、空を飛ぶアオサギたち、その上には雲、そして太陽を。太陽は王の娘を見、恋に落ち、娘に彼の光を送りました。光は娘に触れ、その瞬間から、娘は自分と太陽の間に出来た子供、太陽の娘を産む日を待つことになりました。 塔のなかで太陽の娘が産まれました。王の激怒を恐れた乳母は王女の金の帯で赤ん坊をしっかりくるむと、ソラマメの畑に持っていき置いて帰ってしまいました。そして 王の娘は二十になりました。もう危険はないと考えた王は娘を塔から出してやりましたが、全てはもう起こってしまった事など知る由もありませんでした。その時、太陽の娘は声をあげて泣いていました、ソラマメ畑に捨てられて。 その畑に、狩りに向かう途中の別の王が通りがかりました。泣き声を聞いた王はソラマメの間に捨てられた美しい幼子を見て、とても哀れに思いました。そこで、幼子を抱き上げると、妻のところへ連れて帰りました。王と王女はソラマメ畑の赤ん坊に乳母を見つけ、ほんの少し年上の王子と一緒に、二人の本当の子供のように育てられました。 王子と娘はともに成長し、やがて恋に落ちました。王子はどんなことをしても、娘を妻にするつもりでした。しかし、息子が捨て子と一緒になることを望まない王は、娘を宮殿から追い出し、遠くはなれた家に閉じ込めてしまいました。そうすれば、いつの日か王子が娘のことを忘れてしまうと思ったからです。それが太陽の娘で魔法の力を持っており、人間たちの知らない全ての技(le arti)を心得ているなどは思っても見ませんでした。 娘が遠くに行ってしまうが否や、王は王族の家族から一人の娘を探し、王子の結婚を決めてしまいました。結婚式のその日、縁起物の砂糖菓子が親戚と友人と家族の全員に届けられることになりました。親戚と友人と家族の一覧のなかにソラマメ畑の娘も含まれていたので、娘のところにも王の使者たちが砂糖菓子を届けにいきました。 使者たちは娘の家のドアをノックしました。太陽の娘が降りて来てドアを開きました、ところが娘には頭がありませんでした。 「あら、ごめんなさい」娘は言いました、 「私、髪をすいてたの。頭を鏡台の上に忘れてきちゃったわ。取って来るわね。」 娘は使者たちと上の階に上がり、頭を首に載せると微笑みました。 「さあ、結婚のお祝いに何を差し上げましょう?」 そう言うと、娘は使者たちを台所に連れていきました。 「かまどよ、開け!」娘は言い、かまどが開きました。娘は使者たちに、にこりと微笑み、そして言いました、 「まきよ、かまどの中へ!」まきはかまどに入りました。娘はもう一度、使者たちに微笑むとまた言いました、 「かまどよ火をおつけ、そして熱くなったら私をお呼び!」 そうして、使者たちのほうを向くと尋ねました、 「さあ、何か良い話しはあって?」 恐ろしさで髪の毛は逆立ち、死人のように青くなった使者たちが、正気を取り戻そうと苦労していたその時、かまどが叫びました、 「ご主人さまぁ!」 「待っててちょうだいね」娘はそう言うと、真っ赤に焼けたかまどのなかに入ってゆき、中で向きを変え、出て来ました。その手にはキツネ色によく焼けたパイがありました。 「王様に持って行ってちょうだい、結婚式の御昼食にどうぞって。」 使者たちは宮殿にたどり着き、恐怖に飛び出さんばかりの眼と息も絶えんばかりの声で見てきたことを語りましたが、誰も信じようとはしませんでした。けれど娘に嫉妬した新婦(娘が王子の恋人であったことは誰もが知っていました)が言いました、 「そんなことなら皆、私も家にいた頃やっていたわ。」 すると王子が言いました、 「良かろう、それならば私たちにもやって見せてくれるな?」 困った新婦は、 「ええ、そうね、もちろんよ、、、そのうちにね」と言いましたが、王子は新婦をすぐさま台所に連れていきました。 「まきよ、かまどの中へ!」新婦は言いましたが、まきは動きません。 「火よ、燃えろ!」けれど、かまどは消えたままです。 召使たちが火を付けました。そして、かまどが充分熱くなったときです、大変な自信家の新婦はかまどの中に自分も入ろうとしました。けれども、まだ中に入らないうちにヤケドをして死んでしまいました。 それからしばらく経って、王子はまた別の娘と結婚させられることになりました。結婚式のその日、使者たちはまた太陽の娘のところに砂糖菓子を届けにいきました。ドアをノックすると、太陽の娘はドアを開ける代わりに、壁を通り抜けて出て来ました。 「ごめんなさい」娘は言いました、 「ドアが中から開かないのよ。それでいつも、壁から出て外からドアを開けなきゃならないの。さあどうぞ、これで入れるわ。」 使者たちを台所に連れていくと、娘は 「さて、結婚する王子様にどんな素敵なものを用意しようかしら?ほらほら、まきよ、火のなかに飛び込んで! 火よ燃えなさい! 」 と言い、言葉通りのことが一瞬のうちに起こるのを、恐ろしさに震えながら使者たちは見ました。 「フライパン、火の上へ!油、フライパンの中!熱くなったら呼びなさい!」 少しして、油が呼びました、 「どうぞー、熱くなりました!」 「さてさて」太陽の娘は微笑むと、煮えたぎる油のなかに手の指を全部突っ込みました。すると指は魚に姿を変え、十本の指は十個のおいしそうな魚のカラアゲになりました。それを太陽の娘は自分で、もう新しい指が全部生え揃っていましたから、紙に包み、微笑みながら使者たちに渡しました。 腰を抜かした使者たちの話を聞いた新しい花嫁も、彼女もまたヤキモチ焼きでうぬぼれ屋でしたが、また言いました、 「ふん、それが何さ、私がどんな魚をあげるか、見ててちょうだい!」 その言葉を聞いた王子は、油の煮えたぎるフライパンを用意させました。強がりの花嫁は油のなかに指を突っ込みましたが、ひどい火傷をしてまもなく死んでしまいました。 王女は使者たちに腹を立てて言いました、 「お前たち、なんて話ばかり聞かせるの! 花嫁をみんな殺すつもり?」 ともあれ、三人目の花嫁が来ました。そして、結婚式のその日、使者たちがまたも太陽の娘のもとに砂糖菓子を届けに来ました。 「ほらほら、私はここよ!」 使者たちが扉を叩くと太陽の娘が言いました。辺りを見回すと、娘は空に浮かんでいました。 「クモの巣の上をちょっと散歩してたの、今降りるわ」 そう言うと、糸伝いに娘は降りて来ました。 「今度ばかりは何を送ったらいいのか、本当に分からないわ」 少し考えてから、娘は叫びました、 「ナイフよ、おいで!」果たしてナイフが来ました、太陽の娘はそれを手にとると自分の耳を一つ切り落としました。娘の頭から、切り落とされた耳に続いて黄金のレースが出て来ました。まるで脳味噌のなかでレースが編まれているかのように、娘は延々とレースを引っぱり出しました。ようやくレースが尽きると、娘は耳を元の位置にくっつけました。耳は娘が指で軽くなでると直ってしまいました。 レースがあまりに美しかったので、宮殿の誰もが作り方を知りたがりました。使者たちは王女のお咎(とが)めにもかかわらず、娘の耳の話をしてしまいました。 「ふん」新しい花嫁は言いました 「レース編みの服は全部、私だって同じ方法で作ったわ」 「ほら、ナイフだ、やって見せろ!」花婿が言いました。 向こう見ずの花嫁は耳を切りおとすと、レースの代わりに血の池を作って死んでしまいました。 王子は次々に花嫁を失いつづけました。けれども、まだ太陽の娘を愛していました。そして、とうとう病気になり、笑うことも食べることもなくなりました。どうすれば王子の病が治るのか、誰にも分かりませんでした。 宮殿に年老いた魔女が呼ばれ、魔女は王にこう告げました、 「大麦の粥を与えなさい。けれども、その粥は一時間のうちに種から育った大麦でつくるのだ。」 王様はがっかりしてしまいました、何故ならそんなに早く育つ大麦は見たことがなかったからです。宮殿の人々は不思議なことを色々出来る例の娘のことを思いだし、呼んでこさせました。 「ええ、そういう大麦ね、分かりました。」言うが早いか、娘は種を植え、育て、麦を苅り、一時間も経たないうちに粥を作ってしまいました。 目を閉じて動かなくなってしまった王子に、自分で粥を与えにいくことを娘は望みました。でも、それはとてもまずい粥だったので、一口食べた途端に王子は粥を吐き出し、粥が娘の目に入ってしまいました。 「何てこと、この私の目に粥を吐くっていうの?太陽の娘であり、王の孫であるこの私に?」 「太陽の娘だと?」そばにいた王が言いました。 「そうよ。」 「そして、王の孫だと?」 「そうよ。」 「私たちはお前がただの捨て子だと思っていた! こうとなれば、わしらの息子と結婚してもよいぞ!」 「当り前よ!」 王子はたちまち元気になり、太陽の娘と結婚しました。それからは、彼女も普通の娘になり、おかしなことはしなくなったということです。 おしまい。 |
昔ローマに、ベルタという糸を紡いで暮らす貧しい女がいました。彼女はとても腕利きの紡ぎ手でした。 |
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という具合に書いていきますが、いかかでしたか。 今後の課題
と、課題だらけなので、皆様のご意見、ご感想、ご批評をおまちしております。
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