畑を耕さない時は笛を吹いていた
ジュセッペ・チュウフォロ

 


 むかし、ジュセッペ・チュウフォロという一人の若い百姓がいました。彼は畑を耕さない時はいつも笛を吹いて遊んでいました。
 ある日のこと、笛を吹いては畑で踊り、野良仕事の疲れを癒していたジュセッペ・チュウフォロは、畑の端っこに雲の様にハエがたかった死人が横たわっているのを見つけました。ジュセッペ・チュウフォロは口から笛を外すと、死人に近づき、ハエを追い払うと、草をかぶせてやりました。
 鍬(クワ)を残してきた場所に戻ってみると、鍬が勝手に働いていて、畑半分を耕し終わっていました。ジュセッペ・チュウフォロはその日から世界で一番幸せな百姓になりました。疲れるまで畑を耕して、ポケットから笛を取り出せば、あとは鍬が自分で仕事をしてくれるのですから。
 けれども一つだけ問題がありました、ジュセッペ・チュウフォロは義父のもとで働いていましたが、この義父はジュセッペ・チュウフォロが嫌いで、彼を追い出そうとしていたのです。前はジュセッペ・チュウフォロは畑を耕すのはうまいけれど仕事が遅すぎると言っていましたが、今度は仕事はとても早くなったが、耕し方が荒いと言うようになりました。そこで、ジュセッペ・チュウフォロは笛を手にとると、義父の元を離れました。
 あらゆる地主達を尋ねましたが、誰も彼に仕事をくれませんでした。とうとう最後には、ある年老いた乞食にまで、お情けで仕事を恵んでくれないかと尋ねることになりました、もうお腹が減って死にそうでしたから。
「私と来るがいい。施し物は二人で分けようじゃないか。」
老乞食はジュセッペ・チュウフォロにそう言ってくれました。
 こうして、ジュセッペ・チュウフォロは老乞食と、

   
イエス様・マリア様、イエス様・マリア様!
道行く者にパンのお恵みを!


と歌いながら、歩くことになりました。人々は老乞食には施しをしましたが、ジュセッペ・チュウフォロにはこう言いました、
「お前みたいに若いのが、施しを求めて歩くのかい? なんで、働きに行かない?」
「仕事がないんだもの」とジュセッペ・チュウフォロ。
「それはお前さんの戯言だ。まだ開墾の済んでない土地をいっぱい持ったあの王様を知らんのかい。そこで働く者にはお金をたくさんくれるのに。」
 ジュセッペ・チュウフォロは王様の土地に行きました。施し物をいつも分けてくれた老乞食も連れて行きました。王様の土地を全て開墾したものはまだ誰もいませんでした。ジュセッペ・チュウフォロは耕し、小麦をまき、草取りをし、小麦を収穫しました。そして、刈り取りに疲れたときは、笛を吹きました。笛を吹くのにも疲れたときは、こんな歌を歌いました、
  

  おいらの鎌は陽気だ、おいらの鎌は楽しげだ
だってご主人様はおいらに娘さんをくれるつもりだから

 
 歌を聴いた王女は窓に顔をよせました。ジュセッペ・チュウフォロを見た彼女は恋に落ちてしまいました。けれども、彼女は王妃、彼は百姓です、王様が二人の結婚に賛成するはずがありません。そこで、二人は一緒に逃げることにしました。
 夜、二人はボートで逃げ出しました。ジュセッペ・チュウフォロが置いて来てしまった老乞食のことを思い出したときには、二人のボートはもう沖に出ていました。彼は恋人に言いました、
「じいさんを待ってやんなきゃだめだ。いつも、おいらに施しものを分けてくれたのだから。こんな風に置き去りにする分けには行かないよ。」
 その時です。二人はその老人が後からやって来るのを見ました。老人は海の上をまるで陸の上の様に歩き、ボートにたどり着くと言いました、
「私たちは二人のどちらかが手に入れた物は二人で分けるようにしてきた。 だから、私が得たものはいつもお前と分けてきたのだ。今、お前は王の娘を手に入れたからには、私にその半分を分けてくれなきゃならん。」
そして、花嫁を半分に割るためにジュセッペ・チュウフォロにナイフを渡しました。
ジュセッペ・チュウフォロは震える手でナイフを取りました、
「あんたの言うとおりだ」彼は言いました、
「あんたの言うおりだとも。」
 そして、まさに花嫁を真っ二つにしようとナイフを上げたその時、老人が言いました、
「待て。お前はやはり私が見込んだとおりの男だと分かった。私はお前が草を被せてくれたあの死人だよ。 さあお前達、行くがよい、そして楽しく幸せに暮らすのだ。」
 老人は海の上を歩いて、立ち去りました。二人のボートは一つの島にたどり着きました。その島はありとあらゆる富であふれ、その上、素晴しい宮殿が二人を待っていたということです。

おしまい。
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