モントットーネ村から

第5号 クリスマス

2003年12月20日

 もう、すっかり春ですね……と言いたくなるような風景ですが、これはモントットーネ村のはずれの冬景色です。地面のみどりは芽をふきはじめた麦畑です。イタリアは日本と逆で冬が最もしめった季節なので(夏は乾燥します)、日本の俳句の季語の感覚は通用しません。寒いのは一緒ですが、じめじめとした嫌な寒さです。骨に来ます。
 今年は幸いなことに骨休めに、わたしたちは日本で冬を過ごすことになりました。しかも、温泉です。箱根に新婚旅行なのです。この日曜に旅立つ関係で、今、非常にばたばたしております。隔週発行のお約束を一応守るため、ばたばたしているなりにお届けしてみようと思います。
 読者のみなさまから、お手紙を頂いた中に「イタリアの本場のクリスマスって、素敵でしょうねえ」というメッセージが幾つかありました。残念ながら、今年のクリスマスはイタリアにはおりません。なんとか、イタリアのクリスマスを伝えられぬものか、そう思った私は、三分前に家の窓をあけて一枚、そして、居間でもう一枚の写真を撮ってみました。 窓の外

 右が窓から見た夜のモントットーネの風景です。ひときわ輝いている星のイルミネーションは、クリスマスの時期になると、村役場に委託された業者が街灯にぶら下げて行くものです。まったく同じイルミネーションが50mおきくらいにぶら下がっています。この季節、村を歩いていて目に付くクリスマスらしいものと言えば、この電飾くらいです。じつに地味なものです。写真のものにしても、どうやら電球がいくつか切れているようですね。日本の実家の住宅街のほうがよほど、各家庭の庭先で派手なクリスマスツリーや電飾をしていたような気がします。
 モントットーネは熱心なカトリック教徒が多い村だと思います。けれど、そのクリスマスはこのように地味なものなのです。ローマやフィレンツエなどの大都市、観光地にゆけば、「ロマンチックなイタリアのクリスマス」もあるかもしれません。けれど、私の知る限りでは、イタリアの一般のクリスマス・イブとは、親戚・家族のみんなで集い、ご馳走を食べ、夜中に教会でクリスマスのミサに参加するという、非常に地味なものなのです。妻にいわせれば、子供の頃、プレゼントをもらうことすらなかったそうです。「一人娘なのに?」ときくと、「そんなもんよ」と言われました。
 テレビをつけるとイタリアも日本並に、クリスマスセールだ、プレゼントの応酬だ、と派手なようですが、この村はともかく地味です。
 しらけたようですが、「本場」ではそんなものなのです。イタリアのクリスマスは日本のお正月だと思って想像していただくと、正解だと思います。
猫  なにやらめでたいものですが、ばか騒ぎするものではなく、どちらかと言えば厳かなもの――まさに正月そのものですね。カトリックではない私にクリスマスのありがたさが身をもって理解できないのと同じく、新年を祝って神社にいく、初日の出を有り難がるという感覚は欧米のキリスト教徒には分からないものかもしれません。イタリア人も12/31に爆竹鳴らして大騒ぎしますが、毎年、改造爆竹・花火で死者が出る騒ぎで、だいぶん日本の大晦日とは感覚が違います。年が明ける間際には、あぶなくて車を運転できたものではありません。道の両側の家から、ガキどもに爆撃されることになるからです。真剣におそろしいです。
 右のパン・ケーキはPanettone・パネットーネ(「大きなパン」の意味)と言って、この時期になるとスーパーマーケットに山積みになっています。クリスマスにかならず食べるケーキで、なかに干しぶどうなどが入っている素朴なケーキです。日本のお歳暮のように、クリスマスが近くなると、親しい人や仕事でお世話になったひとに、このパネットーネや気泡ワイン(Spumante・スプマンテ。シャンパンとは違うようです)おかしなどがはいったカゴを贈りあう習慣があります。
 クリスマスとはイタリア人にとって、家族とともに過ごすべき、一年で一番大切な日なのです。そんな時に日本に妻を連れ去る私としては、こちらの両親に非常に申し訳ない気分です。スプマンテの一本でもおいて行こうかと思案中です。
 おそらくこれが、今年最後のニュースになります。
 BGMがかけられるものならば、今、読者の皆さんにおくりたい曲がひとつあります。
 ジョン・レノンのHappy Xmas(War Is Over) です。

 「War is over, if you want it」戦争は終わる、もしあなたが望むならば。

  人々の善意が集う、クリスマスの夜。
 みんなで願うだけでも、なにかはおこると思います。
 もし、あなたが真剣に、それを望んでくださるのであれば。

Buon Natale a tutti!    




モントットーネ村より、
飯田 亮介


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